秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 とても信じられないと言いたげな顔をしている。好きで見合いなんかするわけじゃない、やむを得ない事情があるのだ。それをやんわりと伝えたが、ばっさりと一蹴されてしまった。
「それでも、私ならお断りだな~。でも、榛名さんは私と違って優等生って感じですもんね」

 嫌みを言ったつもりではないのだろう。素直な感想をあっけらかんと伝えただけ。けれど、『優等生』という言葉に胸がチクリと痛んだ。
『天才』という言葉は間違いなく褒め言葉だ。『秀才』も言われて嫌な気持ちにはならないと思う。けれど、優等生にはちょっと小馬鹿にするようなニュアンスがある。そんなふうにとらえてしまうのは、ひねくれすぎだろうか。

 清香はずっと優等生だった。決して親や先生に逆らわない、聞き分けのいい子。でも、『いい子』は『つまらない子』と同義でもある。
 ふいに茉理の声がよみがえる。
『一生に一度くらい、悪い子になって好きな男を誘惑してみたら?』
(私でも悪い子になれるかな。一度くらい……優等生の殻を破ってみる?)
 清香らしくもない、思いきったことを考えたのは、今日が日曜日だからだ。
 日曜日は、彼に会える日。

 いつもどおり、閉館の一時間前に彼は現れた。
 ネイビーの襟付きシャツにライトグレーの細身のパンツ。先週とまったく同じようにひとりでやって来て、室町や安土桃山などの古い時代の絵画をじっくりと眺めている。
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