秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 ロッカーで崩れた化粧を直し、裏口から外に出る。明日は休館日でお休み。さらに明後日は午後からの出勤予定だ。もっとも午後出勤は夜間作業を意味するので、あまりうれしくもないのだが。

「あぁ……」
 外は雨だった。朝の青空が嘘のように、濃灰色の雲がゴロゴロと鳴っている。夕立だろう。ここ数年の夕立は、東南アジアのスコールのようだ。いつか日本も四季ではなく雨季と乾季になってしまうのでは?と心配になる。
 トートバッグに手を入れ、ライトブルーの折り畳み傘を取り出す。清香は毎朝、きちんと天気予報をチェックする。子どもの頃からの習慣なのだ。
(優等生も悪いことばかりじゃないか)
 苦笑して傘を広げる。その瞬間に、少し先の大きな木の陰で雨宿りをしているらしい人物に気がついた。

(きっとお客さまよね? これ、貸してあげたほうがいいかな)
 手にしている傘を貸してしまっても、事務所に戻れば置き傘があったはず。そう考えながら、清香はその人物に近づいていく。そして……。
「あっ」
 思わず小さく声をあげてしまった。そこにいたのは、とっくに帰ったと思っていた憧れの彼だったのだ。雨足は強く、清香の声が聞こえたはずもないが、彼のほうもゆっくりとこちらに顔を向けた。
 清香は小走りに彼に近づき、傘を差し出す。
「あのっ。よかったら、これどうぞ。またご来館の際に、受付の者に渡してもらえれば大丈夫なので」
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