秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 憧れがはっきりと恋に変わったことを、この瞬間に自覚した。
「お、お願いがあるんです!」
 気がついたら、そう叫んでいた。傘の柄をにぎる指先にぐっと力がこもる。
「ん?」
 少し首を傾けるようにして、彼は清香の顔をのぞき込む。その瞬間に、はっと我に返った。

(私……いきなり、なにを言って?)
 パニック状態なのだけれど、不思議と心の奥底では覚悟が決まっていた。ゆっくりと深呼吸をして、まっすぐに彼を見つめた。
「一度だけ、一度だけでいいので、私とデートしてくれませんか?」
 自身の顎を撫でながら、彼はおもしろそうに目を細める。
「デート、ねぇ」
「あっ、その、怪しい者ではないんです。いや、変なことを言ってるのはわかってますが」
 しどろもどろな弁解に、彼は身体を震わせて笑いをかみ殺している。
(笑うと目元が優しくなるんだな。素敵……)
 その素敵な瞳がすっと清香に向けられた。

「いいよ。たしか、ここは明日が休館日だろう? 君の明日の予定は?」
「しゅ、終日、空いています!」
 傘の柄がポキッと折れてしまうのではないかと思うくらいに、手には力が入っていた。
 ふっと頬を緩めて、彼は続ける。
「それはよかった。ところで、デートの具体的な要望は? お茶だけ? ディナーまで?」
(長ければ長いほどうれしいです! できたらディナーもぜひ!)
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