秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 一目惚れは中身を知ってがっかりすることもあるよ。経験豊富な茉莉にそんな忠告もされていたが、清香は自分の見る目が正しかったことを誇らしく思った。
「碧美島には何度も?」
 気になっていた疑問を口にすると、彼はフロントガラスを見つめたまま軽くうなずいた。
「そうだな。仕事の関係で、年に一度は来るかな」

 碧美島を訪れる仕事。リゾート開発やホテル業界。もしくは……芸術関係だろうか。
(おじいちゃんと同じ画家だったりして)
 いろいろと聞いてみたい気持ちが湧くが、こちらが素性を明かさないのにあれこれ問いつめるのはフェアじゃないだろうと黙っておくことにした。
 それに、互いのことを話さなくても話題は尽きない。
「専門分野は日本画か」
「はい。でも、海外画家も好きですよ。有名画家ならクリムトが特に!」
「へぇ、クリムト。君らしいような、そうでもないような」

 彼と芸術の話をするのは楽しかった。専門に学んできた清香と同等以上の知識を持ちながら、決してひけらかすことはない。
 他愛ない話をしながら、碧美島の主要な観光地を巡る。清香はやっぱり美術館が大好きなので、彼はそこに一番時間を割いてくれた。
 この島はどこを切り取っても、本当に絵になる。リゾートらしいのんびりとした空気と最先端アートが見事なバランスで融合しているのだ。
 夕刻になると、彼は海辺で車を停めた。視線の先には小さな岩島が見える。
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