秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 案内された部屋は小高い丘の上に位置していて、ひと部屋ずつ独立した離れのような造りになっている。ウォールドローイングと呼ばれる壁一面のアートも素晴らしいが、大きなガラス窓の奥に広がる景色も一枚の絵画のようだった。船の発するほのかな明かりと夜に向かう途中の空が、なんとも幻想的だ。朝は朝できっと素晴らしいはずだ。

「素敵なところですね」
「ここで飲むコーヒーは最高にうまい。一緒にどう?」
 石造りのテラスに出て、小さな丸テーブルを挟んで向かい合う。
「さっき買ったマカロンも食べよう」
 さきほど、立ち寄った美術館に併設されていたカフェで買ってきたマカロンの箱を彼が開く。清香が選んだのはラズベリーで、彼はピスタチオだ。
「わぁ、おいしそう」
 子どもみたいに目を輝かせていたら、「よかったら、俺のも食べて」と彼は笑った。

「甘いものは苦手ですか?」
「いや、嫌いじゃないけど……。君に食べてもらうほうが、このマカロンも喜ぶだろうと思って」
 そんなに物欲しげな顔をしていただろうかと恥ずかしく思いつつも、素直に好意に甘えることにした。
「ありがとうございます。私、本当に甘いものに目がなくて」
「あぁ、そのうれしそうな顔を見ればわかる」
 美肌とダイエットの大敵だと理解していても、疲れたときや嫌なことがあったときはついつい手を伸ばしてしまう。
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