花は今日も咲いているか。~子爵夫人の秘密の一夜~
エレナは目を瞬かせて、彼と繋ぎ合わせた自分の手を見つめた。
絹のように滑らかな白い手。そこには赤ぎれはもちろん、シミひとつない。
「オレは、ずっと奥さまに憧れていました。オレは……、奥さまのように綺麗な方をみたことがありません」
「……私が、綺麗?」
「はい! いつも凜としておられて、高貴で、まるで女神のようだと……、オレはいつも……」
そこまで聞いた所で、エレナは思わずふっと笑ってしまった。
トマが、その反応に首を傾げる。エレナは何と返したものか――、少し悩んでから、やはり微笑んだ。
「……ありがとう、嬉しいわ」
「では……」
ぱっと顔を輝かせるトマに、エレナは首を横に振った。
繋いだ手を、そのまま胸のあたりまで持ち上げ、もう片方の手をそこに添えた。
「私はあなたとは行けないわ。……あなたにはきっと、私より良い人がいくらでもいる。幸せになって頂戴」
「そんな……!」
「トマ、私も……、あなたの手に惹かれたのよ」
トマは、エレナの言葉の意味が分からない様子で首を傾げた。
「奥さま……、だけど、旦那さまは……」
「私なら大丈夫よ」
トマの視線が、エレナの頬に刺さる。
エレナは、やはり少し考えてから、彼には夫の暴力の理由は話さないでおこうと決めた。
「心配してくれてありがとう。私は……、あなたが一緒に行こうと言ってくれた、その言葉で十分よ」
「だけど、そんな……」
トマが、諦めきれないとばかりに下唇を噛む。
「奥さま……、オレは、三日後の早朝にこの街を発ちます。それまでに、もしも気が変わったら……」
縋るような言葉を、エレナは素直に嬉しいと感じた。
これがひとつの舞台なら、なかなか満足のいく幕引きだ。
エレナは微笑み、頷いた。
「ええ、考えておくわ」
三日目の朝。
エレナはいつものように、サリーに手伝って貰いながら朝の支度を調えた。
髪はゆったりと結い上げ、ドレスは淡い色を選んだ。
女主人としての格好を整えた後は、食堂で朝食だ。部屋を出るエレナのために、サリーが扉を開ける。するとちょうど部屋の前を通りかかるアーノルドと出くわした。
「やあ、エレナ。おはよう」
絹のように滑らかな白い手。そこには赤ぎれはもちろん、シミひとつない。
「オレは、ずっと奥さまに憧れていました。オレは……、奥さまのように綺麗な方をみたことがありません」
「……私が、綺麗?」
「はい! いつも凜としておられて、高貴で、まるで女神のようだと……、オレはいつも……」
そこまで聞いた所で、エレナは思わずふっと笑ってしまった。
トマが、その反応に首を傾げる。エレナは何と返したものか――、少し悩んでから、やはり微笑んだ。
「……ありがとう、嬉しいわ」
「では……」
ぱっと顔を輝かせるトマに、エレナは首を横に振った。
繋いだ手を、そのまま胸のあたりまで持ち上げ、もう片方の手をそこに添えた。
「私はあなたとは行けないわ。……あなたにはきっと、私より良い人がいくらでもいる。幸せになって頂戴」
「そんな……!」
「トマ、私も……、あなたの手に惹かれたのよ」
トマは、エレナの言葉の意味が分からない様子で首を傾げた。
「奥さま……、だけど、旦那さまは……」
「私なら大丈夫よ」
トマの視線が、エレナの頬に刺さる。
エレナは、やはり少し考えてから、彼には夫の暴力の理由は話さないでおこうと決めた。
「心配してくれてありがとう。私は……、あなたが一緒に行こうと言ってくれた、その言葉で十分よ」
「だけど、そんな……」
トマが、諦めきれないとばかりに下唇を噛む。
「奥さま……、オレは、三日後の早朝にこの街を発ちます。それまでに、もしも気が変わったら……」
縋るような言葉を、エレナは素直に嬉しいと感じた。
これがひとつの舞台なら、なかなか満足のいく幕引きだ。
エレナは微笑み、頷いた。
「ええ、考えておくわ」
三日目の朝。
エレナはいつものように、サリーに手伝って貰いながら朝の支度を調えた。
髪はゆったりと結い上げ、ドレスは淡い色を選んだ。
女主人としての格好を整えた後は、食堂で朝食だ。部屋を出るエレナのために、サリーが扉を開ける。するとちょうど部屋の前を通りかかるアーノルドと出くわした。
「やあ、エレナ。おはよう」