花は今日も咲いているか。~子爵夫人の秘密の一夜~
「なにがだ! オレはお前の夫だろう! オレは、お前を好きな時に抱く権利がある! 違うか!」

 その乱暴な物言いに、エレナはびくっと肩を震わせた。
 どんな相手でも、目の前で怒鳴られるのは単純に怖い。
 
 ――なによ……。

 まさか彼がこんな乱暴なことをするとは思わなかった。
 アーノルドは女にだらしがなく、誠実さのかけらもないが、これまでエレナに怒鳴ったことは一度も無い。心のなかではエレナのことを疎ましく思いつつも、結局は頭を下げてこちらの機嫌をとってくる。アーノルドは、いつもそういう男だった。
 それがなぜ今日は――、酒に酔っているからか。なにがあって、自分を失うまで酒を飲んだのか。

「ああ、そう……」

 エレナは、ふと思い至って鼻で笑った。
 
「女にフラれたのね?」

 確信を持って訊ねると、アーノルドがはっきりと顔を引きつらせた。
 その瞬間、エレナはえづくような不快感を感じ、それまで感じていた恐怖も忘れて笑い声を上げた。

「女にフラれて家を追い出され、ヤケになって酒を飲んで、腹いせに普段は抱きたいとも思わない妻に迫っているのよ! なんて矜持の無い男なの! 滑稽よ、あなた!」
「黙れ!」

 ガッと強く肩を掴まれ、エレナは反射的に彼の頬を平手で叩いた。

「黙るのはあなたよ! 酔って乱暴をするなんて、そこまで最低な男だとは思わなかったわ!」
「うるさい! オレは、お前の夫だ!」
「夫らしいことなど、何一つしていないくせに!」

 吐き捨てると、アーノルドはカッとした様子でエレナを強引にベッドへ押し倒した。
 考えるより早く、その腹を思い切り蹴り上げる。
 アーノルドが「うっ」と唸るのを遮るように、エレナは声を荒げた。

「やめて! 大っ嫌いよ、あなたなんか!」
「黙れと言っているだろう!」
「私を怒らせていいの!? どうせ、お父さまに頭が上がらないくせに!」

 父のことを出すと、アーノルドが一瞬わかりすやく怯んだ。
 エレナはおかしくなって、更に言葉を続けた。
 
「あなたの愛人の子供をどうするかだって、私が決めるのよ! 私が! 分かったらもう二度と、私に偉そうにしないで頂戴!」

 そう言った瞬間、頬に鋭い痛みが走った。
 彼に平手で叩かれたのだ。それに気付くより早く、アーノルドが叫んだ。

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