政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
「さっきまでの対応はこのホテルの関係者として。今君を誘っているのは俺個人の気まぐれだ。それを踏まえたうえで返事を聞かせてもらってもいいか?」

 優しい人なんだよね、きっと。久我さんが止めていなかったら私はあれを飲んでいたわけだし。

 恩人がこうして気にかけてくれているのだから、もう少し話をしてみたいという気持ちはある。

 それに建前上ではなく久我さんの好意で食事に誘っているのなら、余計に断りづらい。

 親しみやすい笑顔をじっと見つめて、さっと目を逸らす。カッコよすぎて三秒以上は眺めていられない。

「ぜひ」

 首を縦に振ると、久我さんがコツッと革靴を鳴らして一歩詰め寄った。反射的に近づかれた分後退りする。

「よかった。行こうか」

 あからさまな私の態度を気にした様子もなく手のひらを上向きに差し出す。

 そっと手を乗せると先ほどと同じような優しい力で握って、私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれた。

 自分の意志とは関係なく頬が火照り、胸が高鳴る。

 男性に触れたのは数年ぶりだ。

 これ以上心を乱さないように、お母さんたちに連絡を入れなくちゃ……と、久我さんの手の感触や体温から意識を逸らせた。

< 16 / 137 >

この作品をシェア

pagetop