政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
 静かすぎるリビングでは密やかに交わる吐息がハッキリと耳に届く。いったいどれくらいそうしていたのか、夢中になって恵茉の唇を求めていると「んぅっ」と苦しげな声がして我に返った。

「悪い。やりすぎた」

 ふっくらした唇を濡らす唾液を指で拭ってやると、恵茉はくすぐったそうに肩をすくめる。

 いくら夢を実現させるためとはいえ、まったく好きでもない男と結婚はしないだろうし、俺と同じように好意を持ってくれているはず。それは先ほどの〝憧れ〟という言葉が裏付けている。

 そうだけで十分なはずなのに、どうしても焦燥感に駆られる。

 もっと俺を求めてほしい。

「出かけられるか?」

 気持ちを切り替えて外出を促すと、恵茉は真剣な表情で俺を静かに見据え、目にもとまらぬ速さでテーブルの上に置いてあるティッシュケースから紙を一枚抜き取った。

「どうした?」

「ごめん。口紅がついてる」

 眉根を下げて謝った恵茉はソファに膝立ちして俺の肩に手をのせる。それからティッシュを持った手を唇に押し付けた。

 キスの時と立場が逆転して恵茉にされるがまま。というか、意外な行動に呆気に取られて動けなかった。
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