お邪魔虫にハッピーエンドを
『杏子、俺……またサッカーを始めることにしたんだ』
『えっ、サッカーを?』
スマホから聞こえる景の声に、私は驚きを隠せなかった。
脚を怪我してから、サッカーを遠ざけていた景が、そんなことを言い出すなんて。
驚いたけど、それよりも嬉しさのほうが何倍もあった。
『そう……そうなんだ。うん、景ならきっと大丈夫だよ』
『まだ仮入部だし、ゆるいサッカー部だけど。ありがとな、杏子』
どこか吹っ切れたような景の声。
少しいつもと違うような気がして、首を傾げる。
『でも、どうして始めようと思ったの?』
『え……?』
『きっかけとか、なにかあったのかなって』
『あー……まあ、そうだな』
なんだか言いづらそうで、歯切れの悪い照れたような声が珍しいと感じた。
特に深い意味もなかったし、景が頑張ろうと思えるきっかけがあったのなら、それに感謝したいくらい。
私は呑気にそんなことを思っていた。
『……俺も見習って、頑張らないとなって思ったんだ』
誰を、見習おうとしていたのか。
このときの私には、まだわからなかった。