観念して、俺のものになって


翌日、いつも通り出勤してそわそわしながら仕事を終えると、終業と同時に会社を飛び出した。

もちろん、向かったのは私が毎週のように通うあのカフェ。

ゆっくりと扉を開けると、誰もいないテーブル席を女性店員さんがアルコール消毒して、ダスターで拭きあげているのがたまたま目に入る。


そこに立っていたのはユミちゃんだった。

今日は三つ編みをサイドに流した髪型で、オシャレかつ可愛い。


「いらっしゃいま……あっ!」


ユミちゃんは昨日と同じようにぱあっと顔を明るくして、私に笑いかけてくれた。

この屈託のない笑顔を見ると、元気が貰えるんだよね。


「こんばんは!今日も来てくれたんですね!」

「はい、こんばんは」


すっかり顔馴染みになった彼女はあの件とは無関係だ。

私は軽く微笑んで会釈をした。
 

適当に座った私にユミちゃんはお冷を置きながら、「今日はどれにします?」と問いかけてくる。
 
正直、いつものように珈琲を楽しむ気分ではないんだけど……注文もせず文句だけ言いに来るのはクレーマー客と変わらないなと思って、

「ブルーマウンテンで」と答える。


ユミちゃんはニコニコしながら「いつものブルーマウンテンですね!畏まりました!」と注文を繰り返した。

その笑顔に少し毒気を抜かれつつ、私はある事を思い出す。


そういえば、ドリンク無料はいらない!!って紬さんに啖呵を切ったから今日はコーヒー代を払わなくちゃ。

き、今日はギリギリ払える……はず!


「今日は帰る時に代金支払いますね」と言った私に、ユミちゃんは慌てたように目の前で両手を振った。


「えっ!?お代は頂かないように、って店長に言われてるんで、お金はいいですよ!」

「……えっ?」


それを聞いて目を丸くした。

あの人、私が「ドリンク無料はもういらない」と言ったことを、スタッフの人たちに伝えていないの?



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