観念して、俺のものになって
笑顔で同意すると、おじいさんはニコニコして言葉を続けた。
「いやあ、本当に紬はいい嫁を見つけてくれた!ウチにはまだあれの隠した原稿がたくさん眠ってるんだ。
きみ、今日からでもウチに住みなさい!
ウチにはお手伝いもいるから家事もしなくていい!」
私はおじいさんの掌を握ったまま「うん?」と首を傾げる。
隠した原稿って何だろう?
おじいさんは小説家だったりするのかな。
おじいさんはご機嫌よくうんうん、と何度も頷く。
「いやあ良かった良かった、こんなに早くきみを説得できるとはな!じゃあ、早速紬にもこのことを……」
おじいさんがそう言いかけた時だった。
バン、という音とともに突然扉が開く。
「そこで何してるの?爺さん」
眉を吊り上げ、顔を引き攣らせながら入ってきたのは紬さんだった。
彼が着ているのは僅かに紫色が混ざった、真珠のような光沢を帯びたタキシード。
その中に着ているのはライトグレーのこれまた光沢を帯びたベスト。首元を彩るのは淡い紫のアスコットタイだ。
か、かっこいい……!
間違いない、世界一素敵な花婿だよ。
事前に話し合い、式当日までお互いの衣装を秘密にしていた私は紬さんの格好に思わず見惚れる。
しかしそれも長くは続かなかった。私の隣から聞き慣れたあの音が聞こえてきたから。
「チッ」
えっ?紬さんが目の前にいるのに、なぜこの音が?
音のした方向に首を巡らせると、先ほどまでニコニコしていたはずの優しそうなおじいさんは表情を変え、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「……なんだお前、もう来たのか。わざわざここの付き人に頼んでお前を足止めしてもらったのに」