観念して、俺のものになって
胸が高鳴ったのは気のせいだと思いたい。
なんだかんだ、私のことをうまく言いくるめた店長はただの”いい人”ではないはずだ。
そうやって必死に自分に言い聞かせても、どうしても彼を目で追いかけてしまう。
自分の顔の前へ開いた文庫本を持ち上げた。
ああ、なんで私は1時間もここにいるって返事しちゃったんだろう。
今まで意識したことのなかった店長さんが気になりすぎて、結局買った小説は全然読めなかった。
***
念願のブルーマウンテンを味わって、のんびりしているうちに1時間はあっという間に過ぎていく。
私はテーブルに頬杖をついたまま、空っぽになったコーヒーカップを意味もなく見つめていた。
「お待たせ。それじゃあ行こうか」
そのタンブラーが持ち上げられたのと、低く甘い声が頭の上から降ってきたのは同時だった。