観念して、俺のものになって
まさか、腹黒二重人格男だなんてあの時は全然思ってなかったけど。
きっとあの店のほとんどのお客さんは、彼のあんな一面を知らずにきゃあきゃあ言ってるんだろうな。
珈琲を淹れながらお客さんたちを眺めて、「チッ」と舌打ちしている不機嫌そうな紬さんの姿を想像した私はひとりでふふっと笑みをこぼす。
今日読もうと思っていた文庫本に大切に名刺を挟み、少しだけそれを読みはじめようか悩んで、そっと閉じた。
……明日、仕事帰りにあの店にまた行こう。
それで、紬さんに勧められた美味しい珈琲を飲みながらこの本を楽しむことにしよう。
カウンター越しに見た、紬さんを思い出すと自然と口元が緩んだ。
すごく変な一日だったし、疲れたけど……なんだかんだ言っても人助けをしたのだし、気分は悪くなかったよね。
それに、遠くから見ているだけだった紬さんの意外な素顔を知ることができたことも良かったのかもしれない。
そこまで考えて、ハッとした私は枕へ顔を埋めて足をバタバタと動かす。
べ、べつにセイさんに会いたいわけじゃなくて……!!
ドリンク3ヶ月無料を楽しみに行くだけだよ……!
まーた自分自身に言い訳をしながら、ぎゅっと瞼を閉じる。
その薄闇の中にいたのは一筋縄ではいかなそうな、意地悪な笑顔を浮かべた紬さんだった。