観念して、俺のものになって
仕事が終わると、私は寄り道することもなくまっすぐカフェに向かった。
「いらっしゃいませ!」
店の扉を押し開けたら、鼻腔をくすぐる焙煎された豆の香り。
これがコーヒー好きにはたまらないんだ。
最近、陽が落ちるのが早くなったと思う。
電車に乗る頃には外は薄暗くなっていた。
きっと他にも似たようなカフェはあると思うけど、私はお店の雰囲気とか店員さんの態度も全部含めて、ガゼッタが一番好き。
何でもない普通の日でも、嫌なことがあって落ち込んでいるときも決まって、ここに通う。
なんだか、足を踏み入れた瞬間に現実世界から切り離されたような気がするのね。
お、今日は平日だけどそこそこ席が埋まっているな。
夕方の時間帯は、私みたいに仕事終わりに来た人やパソコンを持ち込んで作業をしているサラリーマンが多い感じ。
私は若いOLの2人が並んでいるレジの後ろへと並びながら、空いている席がないか……そして彼は今日出勤しているのか確認しようと、きょろきょろ店内を見回す。
でも、紬さんの姿は見当たらず、わずかに肩を落とした。
……そうだよね、店長だってお休みの日はあるよね。
いやいや!別にあの人に会いに来たわけじゃないよ!?
珈琲のお供に読書するために来て、ついでにいないかなぁって思っただけだから!!
なんて自分自身に意味のない言い訳し首を振って、空いていた席に静かに腰を降ろす。