観念して、俺のものになって
不意に耳元で聞こえたのは、脳内を痺れさせるような低く甘い彼の声だった。
思った以上に近くから聞こえて、私は少し驚き飛び上がりそうになる。
「おまたせ」
紬さんはいつの間か、私の目の前のテーブルへとできたばかりの珈琲を置き、私の真横から文庫本を覗き込んでいた。
「えっ、あっ、い、いつの間に!?」
「ああ、やっぱり気付いてなかったんだ。何度か声をかけたんだけど集中しているみたいだったから」
「あっ……そうだったんですね。ごめんなさい」
せっかく紬さんが丁寧に淹れてくれた珈琲を、温くしてしまうなんて失礼にも程がある。
熱いうちに早速頂こう。
私は文庫本を閉じて鞄にしまうと、カップをゆっくりと持ち上げた。
豊かな香りを胸いっぱいに吸い込んで、そのまま一口飲む。
口の中でほのかな甘みと芳ばしいナッツのような匂いが広がって、思わず顔が緩んだ。
「はぁ、おいしー……!」
ブルーマウンテンを飲んだ後は、必ず唇から独り言がこぼれ落ちてしまう。それくらいに美味しい。
まさに、幸せのひと時だ。
紬さんからの提案に乗ったのは私だけど、これをタダで飲めるなんて贅沢にもほどがあるよ。