観念して、俺のものになって
断ろうにも、口実が思いつかない。
ていうか、紬さんはこれから帰ろうとしていたのか。タイミングが良いのか否か。
「じゃあ、着替えてくるよ」
紬さんは私の答えなんて聞かずに、手をひらひらと振ってバックヤードへと消えた。
その姿を見送った私はため息をついて、天井でくるくると回るシーリングファンを見上げる。
でも、彼から誘ってくれたのは良かったのかもしれない。
きっと私から、もらった名刺に書かれた紬さんの電話番号に電話をかけることなんてできなかっただろうから。
紬さんが淹れてくれた、こだわりの1杯に再び口をつけた。
私を包むような、香りと味に何度でもうっとりする。
……きっと仁科先生を好きに悪い人はいない、と思いたい。
彼について少しだけ詳しくなった私は、これからどんなことを話そうかと考えながらそっと顔を綻ばせた。