観念して、俺のものになって


上弦の月って言うんだっけ?


「わあ、本当だ」

私が月を眺めていると、紬さんが「あ、そういえば」と話を切り出す。


「あんまり知られてないんだけどね、仁科隆聖はこの辺に住んでいたらしいよ」


大好きな作家の名前に即座に反応し、月を見ていた視線をバッと彼に向けた。


「知ってます!」

知ってると思っていなかったのか紬さんはおお、と感嘆の声を上げる。


「既に知っていたとは、さすがファンだね」

そりゃあ、先生に関する情報は全部調べていますから。大体知っていると自負できるよ!


誇らしげでいる私に対し、紬さんは驚くべき情報を告げた。


「じゃあ、これはどう?『常闇の街』に出てくる主人公の友人、鏑木は仁科の友人がモデルになってるんだ。

作中で2人が蒲焼を食べるシーンがあっただろ?だからちょうどあのやりとりはまさにここで起こったことらしい。まひるちゃんが座っている席に仁科も座っていたんだってさ」


「ええっ!?……そっ、それは知らなかったです!!う、うわああああ」

鏑木のモデルが、仁科先生の実際の友人であるのはもちろん知っていたけど……この料亭が作中に登場していた事は知らない。

ファンの私でさえ知らない事を知っているだなんて、紬さん只者じゃないよ!

私は初めて知るその情報に感激し、泣いていいのか笑っていいのかわからず情緒不安定になってしまう。


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