円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 ダンスでも、ステーシアは満面の笑みでクルクルと優雅に回り続け、会場中の視線をさらっていた。
 一曲目が終わると、近づこうとしたレイナードを無視してルシードとべったり体を寄せ合ったまま会場の外へ出たものだから、レイナードはナディアを俺に押し付けて追いかけて行ったのだった。

 ひとりで戻って来たレイナードは、ステーシアが着けていたはずのネックレスを握りしめ、どんよりした空気を纏っていた。
 聞かなくてもわかる、どうせまた逃げられたんだろう?

 レイナードをバルコニーへ連れ出した。
「そんなシケた顔するな。王子様が台無しだろ」

「シアが…俺以外の男を選んだらどうしよう」

 やっとそれに思い当たったのか、おまえほんと野暮天だな。
 そんなに溺愛してるなら、うんと甘やかして自分の腕の中に閉じ込めておけよ、馬鹿野郎。

「これまでステーシアちゃんがどんな気持ちでおまえとナディアのことを見ていたか、よくわかっただろう?ここまできたからには、とにかくナディアのことをまず円満解決して、それからだ。あと少しでミッション完了なんだから頑張れ、おまえが言い出したことなんだからな?」

 しょげかえっていたレイナードは、どうにか「王子様」の仮面をかぶり直してパーティーを乗り切ったのだった。

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