円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 さてと、ようやくナディアの婚約破棄ミッションはクライマックスだ。
 王妃様からも発破をかけられたのだから、とにかくとっととナディアの件を片付けて早くレイナードとステーシアの仲を修復しなければならない。

 ナディアが留学を終えて帰国する。
 そこに留学先の王太子がのこのこついてくるとなれば、留学中の火遊びでは終わらず関係が続いているということになる。
 家族や婚約者が報告を受けているであろう、留学中のナディアの様子とも合致する。
 さぞや怒られるだろう。

 天真爛漫でいつも明るく元気なナディアは、その笑顔の裏で一途に道なき恋を成就させようと必死だった。
 応援したくなる気持ちもよくわかる。
 しかし、外国の王太子がこんな茶番に加担したとバレれば国際問題に発展する。
 それに婚約破棄された責任を取って娘と結婚しろとナディアの親に迫られたらどうするつもりなのか。
 だからレイナード自らがついて行くことには猛反対したのだが、頑固なレイナードはきかなかった。


「あれこれ上手くいって、我が国の船が海賊に襲われることもなくなれば、ナディアの国と心置きなく貿易ができるようになるね」 
 潮風に揺れる金髪をかき上げながら呑気なことを言って笑っているレイナードに対し、俺は船酔いに苦しめられていた。

 俺たちの献身的な協力に何度も感謝を述べ、ステーシアとの仲を心配するナディアに、レイナードは一瞬悲し気な顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「大丈夫。もう一度シアに振り向いてもらえるように努力するから」

 まったく、とんだお人好しだ。
 ナディアに言ってやりたいことは山ほどあったが、あいにく船酔いが酷くて口を開くことができなかった。


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