円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 ナディアの実家は侯爵家で、血筋を辿ると王家ともつながりがあるという由緒正しい家門だった。
 当主は代々、ロシーゼル商会という貿易商も営んでいる。
 このロシーゼル侯爵家のご令嬢が取り締まるべき対象である海賊と恋仲であることは、許されることではなかったのだ。

 レイナードは「お忍び」のため、護衛は船酔いで使い物にならない俺ひとりだった。
 航海中は、遠くにずっと同じ距離を保ちながらついて来る船があり、まさか海賊に襲われたりしないよな!?とヒヤっとしたが、襲うというよりはむしろ護衛してくれているようにも見えた。
 ナディアがずっとその船を見つめていた様子から察するに、あれは想い人が乗っている船だったのかもしれない。

 港の雰囲気を見ると、ナディアの母国・セントームは噂通り治安の良さそうな国という印象だ。
 しかし船で海に出れば積み荷を狙う海賊が跋扈しているわけで、ならばいっそ海賊の頭領に娘を差し出した方が何かと都合がいいんじゃないかとすら思っている俺は、まだ船酔いが続いているんだろうか。


 ナディアの実家に到着すると、父親であるロシーゼル侯爵は、俺たちにペコペコ謝り始めた。
 実は父親もナディアの恋を応援したかったのだが、相手が海賊となると大っぴらにはそれができず、おまけに高位貴族から断り切れない婚約の打診まで来てどうしようもなかったんだとか。
 そして思惑通り、つい先ほど婚約破棄の知らせが届いたらしい。

 親子は手を取り合って喜んでいた。

 なるほど、親もグルだったわけか。
 話が拗れたらどうしようかと思っていたが、あっさり解決して一安心した。

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