円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 もしも今後この件に関して国内外から照会があった場合には、レイナード殿下とナディアはただの友人で、商談に来ただけと言ってくれるらしい。
 しかしそれではせっかく婚約破棄されたのにまたそういう話が来るかもしれないし、これから先、ナディアが海賊と結ばれても結局商会の立場が悪くなるのではと心配する俺に、ロシーゼル侯爵は笑顔で言った。

「貴族はプライドが高いので、一度婚約破棄した相手の疑惑が晴れたからといって再度婚約を迫ってくることはございませんし、海賊との浮名に加え婚約破棄された履歴を持つ娘に新たな婚約の話も来ないでしょう。
 ほとぼりが冷めたところでナディアがいなくなっても気に留める者もおりませんし、海賊と一緒になったと露見しても、ここまでくればもう『制御不能な親不孝者』の娘を持った親だとむしろ同情を集めるかもしれません。
 ナディアには汚名を着せることにはなりますが、本人は覚悟の上です。海賊は平民には人気ですから、純愛を貫いたと世間では支持してもらえるでしょう」


 その夜、俺はレイナードのことを「人が悪い」となじった。
「ナディアの親もグルだってことを、おまえも知っていて俺に黙っていたんだろう?」

「王太子の身勝手な振る舞いに振り回されてオロオロする側近っていう雰囲気にリアリティーがあってよかったよ。カイン、ありがとう」

 ありがとうじゃねーよ!
 こんな野暮天に騙されていただなんて!ちくしょう!

 
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