円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 俺たちはそのままセントームに2日間滞在した。
 レイナードがロシーゼル商会との貿易の話をこちらに有利な条件でまとめたのはさすがだ。
 独特の質感、色味、光沢を醸し出す貝殻細工やパールの工芸品は、貴族の女性たちの心をがっちり掴むに違いない。

 これまでもセントームと貿易をしたいという意見は数多くあったのだが、海賊に積み荷を狙われるリスクと我が国の海運に不慣れな状況を考えると損害の方が大きいだろうと言われて断念していた。
 しかし、少なくともナディアが海賊の頭領と蜜月でいる間は、用心棒のかわりになってくれるだろう。

 お人好しだとばかり思っていたが、もしかして最初からレイナードはこれを狙っていたんだろうか。
 いや、それは買いかぶりすぎだな。

 土産物屋でステーシアへ贈るネックレスを熱心に選ぶ野暮天の横顔を見ながら、ふとそんなことを考えた。 


 俺たちの見送りのときにナディアが見せた晴れやかな笑顔に、幸せな未来が待っていますようにと願う。
 隣に立つレイナードも、ほっとしたような穏やかな微笑みでナディアに手を振っていた。


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