円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 帰国後、レイナードはしばらく自らがお忍び中にまとめてきた商談の後処理で忙しくなった。
 この商いをどの商会に任せるか、利益の配分はどうするのかということを議会にかけないといけないらしく、王城の文官とともに真面目に仕事をしている。

 議会で、厭味ったらしい重鎮に「それよりもまず、そのロシーゼル商会のご令嬢と恋仲になって、婚約者であるビルハイム伯爵令嬢に対して働いた不貞行為に関してどう申し開きをなさるおつもりか」と問われたレイナードは、しれっと言ったらしい。

「ナディア・ロシーゼル嬢は親しい友人です。不貞行為とは具体的にどのようなことをおっしゃっているのでしょうか。その情報の入手先は?まさか、あなたほどの方が10代の学生の噂話を鵜吞みにしたわけではありませんよね?」
 そして記録係に、この一連のやり取りを公の場での発言としてしっかり記録しておくようにと指示を出したため、王太子をやり込めてやろうという発言はその後一切なく、粛々と議題に沿った会議が進められたという。


 レイナードが議会で奮闘している間、俺はステーシアがどのように休暇を過ごしているのかを監視する任務を与えられたのだが、彼女は相変わらず破天荒だった。

 俺たちがこの国を離れている間には、彼女はなぜか変装をして偽名を使い、騎士団の体験訓練に参加して暴れまわっていたらしい。

 また、あのパーティーの日にステーシアのエスコートを務めたルシード・グリマンとの親密度が増していて、連日のように魔導具研究室を訪れていた。
 ルシードに嫌がらせをする継兄のディーノをこらしめて投げ飛ばし、遠くから見ていた俺にもはっきり聞こえる大声で「どうだ!」と言って笑っていた。

「どうだ」じゃねーし!

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