婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「つまり、わたくしとレンがお付き合いをしているのは、嘘であるということですね?」

「え、とまあ。今までは嘘だったかもしれないが、できればこれから、それを本当にしたい、というか……」
 エメレンスも自分で何を口走っているのかがわからなかった。だが、エリックを見ているともう不安しかない。きっと彼女はこれからも、こうやって他の男に口説かれるのだろう、と。

「ディア、ちょっとこっちに来てくれないか?」
 この場所は目立つ。事務所に向かう道のど真ん中。まだみんなが出勤するには早い時間ではあるが、それでもいつ他の人とすれ違うかはわからない。
 ちょっとだけ人目のつかない場所にリューディアを誘導しようとしたのだが、まだ彼女の腰に手を回していたことに気付いたエメレンスは、慌ててその手をぱっと離した。
「ああ、咄嗟のこととはいえ、失礼なことをした」

「いえ、レンにそういったことをされても、なぜか、嫌であるとは感じませんでした」
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