婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 エメレンスはリューディアの腕を引っ張るようにして、建物の陰になるような場所へと連れていった。
 そこで彼女と向かい合う。大きく息を吸って、長く息を吐く。

「……ふぅ。リューディア・コンラット……」

「あ、はい」
 久しぶりに本当の名を呼ばれたリューディアも驚き、つい条件反射で返事をしてしまう。

「ボクは君のことが好きだ。だから、どうかボクと結婚を前提として付き合ってもらえないだろうか……」

 彼女は目をくりくりと大きく広げて、再びきょとんという表情を浮かべる。先ほどから、リューディアにとってはきょとんとするような出来事が続いている。
 何か言わなければならない、とリューディアは思った。口を開くのだが、言葉が出てこない。だから、口を閉じ、もう一度何かを言わなければ、と思って口を開く。だけど、言葉は出てこない。
< 165 / 228 >

この作品をシェア

pagetop