婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 リューディアの震える声を聞いたエメレンスはしまった、とさえ思う。だがここまできてしまったら、引き返すこともできない。

「そうだよ、ディア。あの愚かな兄に代わってボクが謝罪する。君をずっと傷つけてきたこと。本当に、悪かったと思っている」

 いつの間にかリューディアは、大粒の零れそうな涙をその目に溜めていた。辛うじて、それが流れ出てこないのは、リューディアが目を大きく開いているから。

「いいえ。エメレンス殿下に謝っていただくようなことではございません。わたくしが、きちんとモーゼフ殿下とお話をしなかったことが原因なのです」

「だけど、兄上は、リューディアに近づくとまともに話せなくなるからね。君のことが好きすぎて」
 イルメリは吹き出しそうになった。彼女から見たら、モーゼフもエメレンスも子供のような存在だし、エメレンスの話を聞いていれば恋愛に奥手な男の話にしか聞こえてこない。

「わたくしは、モーゼフ殿下に嫌われてはいなかったのですね……」

「もし、兄上とやり直したいと君が望むなら、ボクも協力するよ」
 リューディアは涙の溜まっている目で、エメレンスを見上げた。だが、そう言ったエメレンスも苦しそうな表情を浮かべている。ほんの数時間前、リューディアに向かって結婚して欲しいと、そう言った彼。彼がどのような思いでその言葉を口にしているのか。

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