天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 それでも心を鬼にしなくては、壱生のいいなりになってしまう。

「ごめんなさい。あのお手伝いしたいのはやまやまなんですけど」

「はい、言質いただきました。ほらバッグ置いて」

「む、無理ですってば」

 壱生が純菜のバッグをひっぱるのでそれを阻止しようと必死になる。ふたりして一歩も引かないままにらみ合った。

「と、とりあえず、考える時間をください」

 純菜が譲歩すると壱生の腕が緩んだ。

「わかった。今日は遅いからとりあえず送っていく」

「でも、体調は――」

「もうこれ以上は譲らないからな。俺は絶対君を送っていく」

 前のめりに言われてそれ以上逆らえなかった。純菜は「お願いします」というとピッピをケージの中に入れて先に玄関に向かった壱生を追いかけた。



 真っ白いSUVは純菜でも知っている高級外車だ。視線が高く壱生の運転も上手なので乗り心地は抜群だ。

「家、こっちでよかったよな」

「はい」

 何度か会話で自宅最寄り駅の話をしたのでそれを覚えていたようだ。

「送ってくれてありがとうございます。やっぱり車だと楽です」

 急いで仕事を終わらせて、壱生を自宅まで送った。ほとんど休憩せずにこの時間になってしまったので疲れきっていた。

「今日は迷惑かけたな。矢吹がアシスタントで助かった」

「そんな……葵さんとかならもっとちゃんとできていたと思いますよ」

「そんなことないだろ。仕事はそうかもしれないが、体調が悪い時のフォローは矢吹じゃなきゃ頼まないからな」

 なんだか自分が特別だと言われているような気がして純菜は戸惑う。

「別に普通のことですよ」

「でも、俺が頼みたいと思うのは矢吹だけなんだから、仕方ないだろう」

「なんですか……それ」

 開き直った言い方だと思うけれど、純菜を喜ばす言葉に恥ずかしくなった。

「ところで、前から聞きたいと思っていたんだが。君が恋愛も結婚も興味がないのは何か理由があるのか?」

 まったくそんな話をしていなかったのに、いきなりのことで驚いた。

「いきなりなんですか?」

「過去に何かあったのか」
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