天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 図星をつかれて口ごもる。

 二十六歳まで生きていれば人間恋愛でひとつやふたつ失敗をした人も少なくない。
 かたくなに隠すのも何だか変な気がしたのと、車の中の密室に二人きりで、いつもと違う雰囲気が話を後押しした。

「私昔から地味な見かけと性格だったんですけど、背だけはそこらの男子よりも高くて目立っていたんです。中学生のときに、唯一話せる男子、あっ、幼馴染なんですけど――その子に告白されて喜んでいたら、実はいたずらだったっていうことがありまして……」

 あまり重くならないように、できるだけ明るく話をしたつもりだ。けれど壱生は「はぁ?」と怒りを孕んだ一言を発する。

「なんだよそれ、バカらしい」

「そうなんですよね。いつまでもこんなこと引きずってバカみたいだと思うんですけど――」

「いや、俺がムカついてんのは相手の男だよ。いくらガキでもクソだな」

 前を向いて運転しているのでその表情はわからないが、吐き捨てるような言い方だけでも彼の怒りが伝わって来た。

「まあ、昔のことだから」

 予想以上の壱生の怒りに驚いたが、彼がそんなに怒るようなことではないと思う。

「昔の話じゃないだろ。今もこうやって引きずっているんだ」

「たしかにそうかも知れないですけど、私もそれでいいと思って何も努力しませんでしたから。だからあくまできっかけだったってだけだと思います」

「でも――」

「あ。この近くです。あの白い建物がそうです」

 壱生はまだ何か言いたそうだったけれど、ちょうどマンションの近くまで来たので話を終わらせた。

 壱生はゆっくりと車をマンションの駐車場に止めた。

「ありがとうございました。今日はゆっくり休んでくださいね」

 車を下りながら伝える。

「わかってる。危ないから早く中に入れ」

 まれに仕事でこの時間になることもあるし、駅からそこまで遠くないので人通りもある。それなのに心配症だと思いながら壱生の言う通りにした。

「では、また明日」

 声をかけてマンションのエントランスに入る。三階なので階段を使って部屋に向かう。

歩きながら鍵を用意してふと部屋の前から駐車場を見ると、壱生の白い車がまだ停まっていて、傍らには彼が立っていた。

「え、もしかして待っててくれたのかな。嫌でも、何のために?」

 首をかしげていると向こうが純菜が下を覗いているのに気が付いたのか手を振ってきたので、振り返した。
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