天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 さっき純菜に見せていた意地の悪い視線は、今はしどろもどろになっている。弁護士が現れて分が悪いと判断したのか壱生を押しのけて走り去った。

「待て、クソ」

 悪態をつく壱生だったが、男が走り去った姿を見てその場にへなへなと座り込んだ純菜の近くにかがんで顔を覗き込む。

「大丈夫か? ほら、立って」

 純菜は壱生に肩を抱かれてゆっくりと立った。大きく息を吐き何とか気持ちを落ち着ける。

「すみません、私何がんだか……」

「そうだろうな。中に入って話ができるか?」

「あ、はい」 

 純菜は鍵を取り出し部屋の扉を開けると壱生を部屋の中に招き入れた。

 ソファに座るように勧めて、お茶を準備する。壱生は気にするなと言ったけれど、気持ちを落ち着ける時間が欲しかった。

 その間壱生はスマートフォンの画面に真剣に視線を走らせていた。

 体がまだ本調子ではないだろうからとほうじ茶を入れて持っていく。すると難しい顔をしてスマートフォンの画面を見ていた壱生が顔を上げた。

「今から実家に電話できるか?」

「え、はい。まだ起きてると思うので」

 時刻はまもなく二十三時。普通なら電話をするのは遠慮する時間だけど緊急事態なので父のスマートフォンに電話を掛けた。

 五回ほどコール音の後「もしもし」という聞きなれた父親の声が聞こえた。

「お父さん、純菜だけど」

『ああ、元気か。こんな時間にどうした? さみしくなったのか?』

 いつまでたっても子ども扱いする父親に苦笑する。しかし悠長に話をしているわけにはいかないのだ。

「お父さん、銀行以外から借金してる?」

『ああ、実は預かっている犬が増えてね、資金繰りが一時的に苦しいときがあって。そのときにボランティア団体の人に紹介してもらった会社にね――』

 話を聞いている最中だったが、壱生が代われとジェスチャーを送ってくる。

それに頷きながら今日電話した理由を伝えた。

「実は今日私のところにその会社の関係者の人が来て支払いが滞っているって言われて。何だかとても怪しい感じの人だったし心配で。それで――」

 純菜の目の前で壱生が早くしろと無言で訴えかけている。

「それでちょっと弁護士の先生に代わるから」

 慌てた純菜はとりあえず壱生に電話を代わることだけ告げて、彼にバトンタッチした。

 父親の方は、いきなり出てきた弁護士に驚いたに違いない。
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