天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
「最高裁の判例では返済義務はないとされているが、相手が相手だけにそうは簡単に行かない。だから素人が解決するのには無理がある」

「だったら、どうしたらいいんですか?」

 心配で顔を曇らせた純菜の額に、壱生がデコピンをした。

「痛いっ!」

 額を抑える純菜に、壱生は笑って見せた。

「だから、素人には無理があるって言っただろ。俺はプロだ。完璧に綺麗に片付けてやる」

 頼もしい姿に純菜は、男と対峙した時の恐怖が薄れているように感じた。

「よろしくお願いします。私できることなら何でもしますから」

「はい、二度目の言質いただきました」

 あっ、と思ったけれどもう遅い。壱生はニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべている。この人が本当に弁護士なのか疑いたくなるほどだ。

「あの、さっきのは言葉のあやというかなんというか」

 焦って取り消そうとするけれど、そんなこと壱生が許すはずない。

「言葉のあや? そんなものが俺に通用すると思っているのか?」

 いいえ、思ってません。

 けれどそう伝えるやいなや、彼のいいようにされてしまうのは目に見えていた。

「とりあえず、今日のところは君も混乱しているだろうから帰るけど。俺ボランティアはしない主義だから。報酬はきっちりといただくからな。手始めにそうだな……ピッピの世話を頼もうか」

「……はい」

 実家のピンチを救ってもらったのだ。対価を支払うのはあたりまえだ。

「あの……わかりました。私にできることなら何でもやらせてもらいます」

 これは壱生に実家のトラブルを解決してもらう謝礼と同時に、ひいては小さな命であるピッピのためでもある。そもそもタダで助けてもらおうなんてムシのいい話だ。 

「わかった、じゃあ今日から泊りで頼むな」

「え? 泊りで?」

 とんでもないことを言われて聞き返す。

「ああ。そうじゃなきゃ、君の部屋で世話する?」

「いえ、うちはペット禁止なんで無理です」

「だったら、俺の部屋に寝泊まりするしかないだろ。そうしなければ俺がまた倒れる。だとしたらアシスタントの君も困るんじゃないのか?」

 壱生が仕事ができなくなるとどれほどのクライアントに迷惑をかけることになるだろうか。

 壱生はその仕事ぶりから依頼人が彼を指名することも多い。よって大口の案件が集中しているし、彼じゃないとダメな仕事も多々ある。
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