天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 そう話しかけると歓迎しているように尻尾を振った。かなり残念な状況にも関わらずそれを見て優しい気持ちになった。

「こっちの客間使って」

 リビングから出てすぐの扉を開けた壱生が純菜の荷物を運び入れる。

「はい。ありがとございます」

 部屋の中を覗くと、備え付けのクローゼットのほかにはベッドとフロアランプというシンプルな造りだった。

「あのベッドって――」

「心配するな。使うのは君が初めてだ。もちろんシーツも新品」

「いえ、別にそういうことが聞きたかったんじゃなくて、鮫島先生のベッドはちゃんと別にあるのか聞きたかったんです」

 壱生はデスク周りもいつも整理整頓されていてものをあまり持たない。だからここも普段から彼が使っている部屋なのかと思ったのだ。

「いや、俺の寝室は奥。矢吹が寂しくて眠れないって言うなら部屋に来れば一緒に寝てやるけど?」

「え、遠慮します!」

 冗談だってわかっていても、恥ずかしくて顔が赤くなってしまう。

「あ、ピッピ眠そうなんでケージにいれてきます」

「ごまかすなよ、恥ずかしいのか?」

 まだからかおうとする壱生を置いてリビングに戻り、ピッピをケージに戻していると「矢吹~」とキッチンから呼ばれて振り向いた。

「飯、まだだろ? 喰うか?」

 彼の手にはカップ麺がふたつあった。普段の洗練された壱生とは結び付かずに違和感を持つ。

「鮫島先生もカップラーメン食べるんですね」

 意外に思ったことを伝えると、壱生は笑いながらお湯を沸かす。

「君は俺を一体なんだと思ってるんだ? むしろこいつにはかなり世話になってるな。食事をする時間がもったいないからな。で、どれにする?」

 純菜がキッチンに行き、壱生の開けた引き出しを見ると彼の言葉を裏付けるように色々なカップ麺があった。

「俺のお気に入りはこれ」

「では、私はそれをいただきます」

 彼おすすめの醤油味のラーメンを選ぶと、壱生はすぐに手早く準備し始めた。

「普段あまり料理はしないんですね」

「あぁ。矢吹はいつも昼は弁当だな。ここにいる間はキッチン好きに使ってくれていいぞ。調理器具は一応そろっているはずだ」

「はい、お言葉に甘えます」

 毎日外食にするとなると月末のお財布事情が厳しくなる。キッチンを使っていいという申し出は正直ありがたかった。

 きょろきょろと見回していると、ピピッとタイマーの鳴る音が聞こえた。
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