天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 きっと純菜のコンプレックスを少しでも軽くしてくれようと思っているに違いない。

 その優しさがくすぐったくて、話題を変えた。

「壱生さんは、どうしてパートナー弁護士になるのにこだわるんですか?」

 そもそも壱生クラスのエース級の弁護士ならば、国内外引く手数多だ。自分で独立をするという方法もある。

 彼のマンションの豪華さなどから資金面で困っているような様子もない。

「これは代表以外誰も知らない話なんだが――」

 そう言って運転しながら話はじめたのは、壱生の幼少期の話だった。

 彼の両親は叔父から引き継いだ工場を夫婦とふたりの職人で切り盛りしていた。

 しかし引き継いだ時点で借金だらけだった工場の経営はすぐに立ち行かなくなる。

 その時に手を差し伸べてくれたのが今の代表の榎並だったそうだ。事業継承をすすめて両親や従業員が工場を手放した後も生活に困らないようにしてくれた。その後彼の両親は北海道でのんびり農業をしている。

「あのとき弁護士ってこんなこともやるんだって。そのとき代表が目標になった。だから他の場所じゃ意味がないんだ」

「そんなことがあったんですね」

 ふたりが昔から知り合いだったなんて知らなかった。

「でもそんな理由があったなんて。小さな頃の夢かなうといいですね」

「まあ、そのつもりだけど。どうも俺の私生活が気に入らないらしい」

 壱生らしい言い方に、思わず笑みを浮かべてしまった。

「俺がモテるのは俺のせいじゃない」

「それ贅沢な悩みって言うんですよ」

 思わず苦笑してしまう。

「今一番面倒なのは、ピッピの飼い主だ。あの人の弁護を俺にやらせたの間違いだろう。余計にトラブルになりそうだ」

「本宮さんとも何かあったんですか?」

「いいや、何もないように必死で逃げている」

 そうだった。そのために私と結婚しようだなんて言い出したんだった。

「さ、ついたぞ」

 壱生が車を停めたのは、一軒家だった。不思議に思いながら車から降りると小さな看板が出ている。

 壱生は後ろの席のクレートからピッピを出して、抱き上げた。

「ここ、なかなかうまいんだ」

「レストランですか? だったらピッピは――」

「ここはペット同伴大丈夫。ちゃんと調べてあるから」
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