天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 これまで壱生が帰国して半年で五人のアシスタントが交代している。一人目の女性は壱生を上司ではなく恋愛の相手として見てしまったのが原因で、仕事が手につかなくなってしまった。

 ふたり目の女性も同じく。

 今度は男性のパラリーガルをつけたのだけれど、今度は壱生の仕事ぶりとモテっぷりに嫉妬してわざと仕事を遅らせるようなことをし始めた。彼曰く自分との能力の違いに嫉妬した、とのこと。

 その話を聞いたときに「そんなことで?」と思ったのを思い出す。後のふたりも同じような理由だ。

「鮫島先生は本当に厄介なのよ。人の心を操っちゃうの。みんな彼を好きになったり憧れたりする。まあ弁護士の仕事は天職よね。憧れているくらいならまだいいけど、それをこじらせるから本当に困るのよ」

 葵の言葉に純菜もわかるような気がして頷いた。これまであまり接点はなかったが、彼の噂は色々と聞いて知っている。

 他の人がどんなに難しいと言った案件でも、すっと相手の懐に入って結果こちらの言い分を通してしまう。

 そんなこと本当にあるのだろうかと疑いたくなるが、彼の仕事ぶりを見て入ればそれもあながち嘘ではないのだとわかる。

「ただそれゆえに、トラブルも起きがちなのよね。その点ほら、矢吹さんはさ鮫島先生の事なんとも思ってないでしょ?」

「それは……そうですけど」

 何とも思っていないわけではない。正しくは「苦手」なのだ。

 百七十二センチある身長のせいで、学生の頃は心無い男子に「大女」なんて呼ばれていた。そのせいで少しでも身長を低くみせたくて背を丸めて歩いていた。なるべく目立たないようにそれだけを心に生きてきたのだ。 

 だから壱生のような、いつも日を浴びて輝いているような人間の傍には寄りたくない。彼のような人のまぶしさは時々純菜を卑屈にさせる。だからこそ自分から距離を取って近付かないようにしていたのだ。

「でもそんな理由で?」

「十分だとは思うけどね。もう事務所内のトラブルはごめんだわ」

 葵の言う事ももっともだ。

「私も拒否できないってわかっているんですけど……でも、でも嫌なものは嫌なんです。だって他になりたい人まだまだたくさんいそうですよ?」

 何人かの壱生を狙う女性たちの顔が思い浮かぶ。その人達から明日以降どんな目を向けられるのかと考えるだけで震えた。
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