天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
「その人たちじゃ、結局同じトラブルになるのが目に見えてるわ」

「国見さんもあまり鮫島先生に興味ないですよね? 代わってください!」

「それはごめんだわ。私まだ鮫島先生のファンたちに殺されたくないもの」

 肩をすくめる葵に、純菜は絶望した。

「ひどい」

「まあ、腹をくくるしかないわね。仕事の事は手伝ってあげるから」

「……はい」

 もうどうにも覆ることがないのなら、覚悟を決めるしかない。そう思って肩を落としているとノックの音が聞こえた。葵が返事をするかしないかのタイミングで扉が開いた。そこにいた人物を見て驚く。

「あ~いたいた。探したんだぞ。矢吹」

「え、私ですか?」

「ああ。そうちょっと話をしておきたいことがあって。彼女借りていいかな?」

 壱生の言葉に葵は席を立った。すれ違うときに「がんばって」とだけ言って部屋を出て行った。

 いきなり悩みの張本人を目の前にして緊張する。

 もしかして向こうから断ってくれるかもしれない。期待をして顔をあげた純菜は笑顔の壱生と目が合う。

 すると彼はにっこりと笑ったのだ。それだけでこれまで重かった部屋の空気が柔らかくなった気がした。

 これが噂の……。

 どこか冷静に判断している自分をおかしく感じた。

「矢吹、俺とのペアの件。やっぱり嫌だと思ってる?」

 ここでどう答えていいのか迷う。

「いいから、正直に」

 彼の言葉に甘えて素直に答えた。

「はい。できれば他の人にお願いして欲しいです」

 自分が言っていることがわがままだということは十分理解している。けれど一縷の望みに掛けた。

「それはできないんだなぁ~実は俺、代表から釘刺されていて。今度事務所内でトラブルを起こしたら出世に影響するってさ」

「それはご自身の問題ではないのですか?」

 望みが絶たれてしまったせいか、言葉がきつくなる。

「おお、言うね。確かにそうなんだけど、向こうから来ちゃうから」

 反省していないその軽い態度に眩暈がしそうだ。思わずキッと彼を睨んでしまった。

「いいね、その顔。俺のこと嫌いでしょ?」

「そこまで言ってません。苦手なだけです」

 普段はこんな風に思っていることははっきり言う事なんてまずない。しかし今日の純菜は色々と我慢の限界だったのだ。

「それでいい! いやむしろそれがいいんだよ! 君は絶対俺のことを好きにならないでくれ」
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