天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 純菜がだまったままなのをいいことに、乃亜はしゃべり続けた。

「矢吹さん、ご実家が大変なようだけど平気?」

「え、どうしてそれを?」

 近しい人でさえ実家のトラブルの話はしてない。それなのになぜ乃亜が知っているのだろうか。

「ふふふ。さてどうしてでしょうか?」

 顎に人差し指をそえて小首をかしげクスクス笑う。その姿は純菜を挑発しているように見えた。

「大変ね。ネットって怖いわね」

 純菜は乃亜が何をしたいのかわからずに黙った。下手なことを言うわけにはいかない。

「ふふふ、助けてあげましょうか?」

「どのようにして……でしょうか」

 純菜が話に乗ってきたと思って、乃亜は笑みを浮かべた。

「私が言えば止るわ。ネットの書き込みも落書きみたいな嫌がらせも」

「犯人を知ってるってことですか?」

「さぁて、どうでしょう」

 何も知っていなければこんな言い方はしないだろう。彼女がトラブルのなんらかを知っているのは間違いない。

「犯人のこと教えてください」

 ちゃんと解決をしなくては、両親はいつまでも心配することになる。

「それはあなたの出方しだいよ」

「私が、何をすればいいんですか?」

 できることなら何でもするつもりだった。そう、できることなら。

「簡単よ。鮫島先生と別れて」

「え……な、何を言ってるんですか?」

 まさかそんなことを言われるとは思わなかった。壱生も言い寄って来る女性は結婚すればいなくなると予想していた。

 確かに他の女性からのアプローチは減ったようだが、乃亜だけは別だった。

 そもそも私なんて相手にしていなかった……?

「何って、鮫島先生は乃亜と結婚したほうが幸せになるもの。考えたら私も再婚だし鮫島先生も再婚ならちょうどバランスが取れるわ。あ、もしかしてそのためにあなたと結婚したのかしら?」

 なんという強引な解釈だ。狂気に満ちていると感じるのは純菜だけではないはずだ。

「あら、もしかして別れたくないの?」

 何も言わない純菜に、苛立ちを見せた。

「あなたがそのつもりなら、別れたくなるようにするだけ。実家への嫌がらせは継続するとして、後は本宮自動車のこの事務所との顧問契約を破棄しましょうか?」

「え、そんなっ! それは困ります」
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