天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 しかし壱生と出会って、彼が花を育てるように大切に純菜を育ててくれた。

 自分に自信を持つこと、自分の気持ちを素直に伝えること、そして人を愛すること。

 どれも人生において大切なこと。それを壱生が彼の愛をもって教えてくれたのだ。

 ここで私が引いたら、台無しになる!

 やっと好きになった自分のこと、嫌いになりたくない。

「思いません! だって彼が選んでくれたのは他の誰でもない私なんです」

 自分が選ばれた人間なのだと、傍から見れば傲慢な言い方だろう。しかし純菜にとってはそれも大きな自信につながるひとつだ。

「だから私は彼の気持ちに応えようと思います。きっとここで私が条件をのんだら彼はがっかりするし、傷つくはず」

 純菜はまっすぐに乃亜を見つめた。その目に迷いはない。

「あなたみたいな人がそんなことを言うなんて信じられない」

 乃亜がかなり切り声をあげた瞬間、応接室のドアが開いた。

「本宮さん、そこまでにしてください」

 現れたのは今事務所にいないはずの壱生だった。

「外まで声が聞こえていましたよ」

「申し訳ありません」

 廊下は事務所の人間だけではなく、他のクライアントも通る。

 本来ならば純菜が冷静に乃亜と話をしなくてはいけなかった。

「鮫島先生、この子クビにしてください。クライアントの私に生意気なことを言うのよ。本当に自分の立場ってものがわかってないわ」

 乃亜は足を組み態度でも不快感をあらわにした。たしかに純菜の態度はクライアントに対する態度ではなかった。

「本当に自分の置かれている立場がわかってないな」

 壱生の言葉に乃亜は笑みを浮かべた。

「ほらみなさい」

 見下したような視線に、純菜は目を伏せた。

「何を言っているんだ? 立場がわかっていないのは本宮さん、あなたですよ」

 壱生の言葉に、純菜も乃亜も驚いた。

「壱生さんそれはちょっと」

 いくら怒っていてもさすがにその態度はまずいのではと純菜も焦る。

「いや、本宮さんはもううちのクライアントじゃないから。契約は昨日解除している」

「えっ!」

 純菜も初めて聞く話で驚いた。

「な、なに言って……」

 さすがの乃亜もたじろいでいる。この状況で壱生がうそをつくとは彼女も思わなかったからだ。

「どういうこと?」

 そのとき乃亜のスマートフォンが着信を告げた。画面を確認して彼女は慌てた様子で電話に出る。
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