天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
「でたらめだとおっしゃるなら、それはそれで結構。ただし、私は妻の実家側の弁護士ですから、本宮さんのところとはこれ以上取引できません」

「そんな私情で、契約を解除したと言うの? この事務所はどうなっているの?」

 乃亜の美しい顔が憎悪に歪む。

「君のこれまでの俺に対する行為、妻に対する暴言、どちらもこれ以上お付き合いするべきではないと代表も判断した。そういうことです」

 乃亜は真っ赤な顔をしてじっと壱生を睨んでいる。

「私がいなくなってもいいの?」

 乃亜はこの状況でもなお、まだ壱生が自分を選んでくれる可能性があるのだと思っているようだ。

 その時ノックの音が聞こえた。

「どうぞ」

 壱生が許可するとひとりの男性が中に入って来た。

「失礼します。鮫島先生、ご連絡ありがとうございます」

 男性はきっちりと壱生に頭を下げて、それから乃亜の前に立った。

「お嬢様、ご主人様がお待ちです。まいりましょう」

「いやよ。玉川、放しなさい」

 やり取りからして、彼が本宮家の秘書だと言うことがわかった。

 何度か名前はでてきていたが、純菜は初対面だ。どうやら壱生が迎えに来るように言っていたようだ。

「では、少々手荒になりますが、失礼します」

 そう言ったかと思うと、玉川は乃亜を抱えた。

「やめなさい! 降ろしなさい!」

 乃亜は玉川の体をこぶしで激しくたたくが、玉川は顔色ひとつ変えずに純菜たちの方を向いた。

「この度は大変ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。今後の対応については追ってご連絡いたしますので。では」

 そのまままだ叫び続ける乃亜を抱えて、玉川が出ていった。廊下を行きかう人々も何事かと注目していた。

「大変だな。あれは」

 壱生ののんびりした声に、純菜の緊張がほどけてほろほろと涙を流した。 

 壱生はそんな彼女を抱きしめる。

「迷惑をかけたな。俺がもう少し彼女に対して毅然とした態度をとるべきだったんだ。実家にもお詫びに向かうつもりだ」

 涙ながらに純菜は頷いた。

 壱生が事の顛末を話して聞かせてくれた。

 あのあと壱生はもう一度両親に連絡をして、ペットの入院施設や犬舎に見守りカメラが多数設置してあることを確認した。

 その録画された映像を確認したところ、窓越しに幹久の姿が確認できたということだ。
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