天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 そう言った壱生がまた純菜にキスしたあと、してやったりと言った顔を見せた。

 普段は法律を操り、毅然とした態度で仕事をこなす弁護士なのに、時々純菜に見せる子供っぽい姿を見ると彼と結婚してよかったなと改めて思えた。

「そうだ、純菜。こっちに来て」

 リビングにはさっきまでなかった、見慣れたクレートが置いてあった。

「待って……これって」

 急いで近づいて透明な扉から中を覗いてみると、そこにはすやすやと気持ちよさそうに眠るピッピの姿があった。

「ど、どうして!?」

 信じられない気持ちで、後ろにいる壱生を見る。

「純菜、口には出さなかったけどずっとピッピのこと心配してただろ?」

「知ってたの?」

 乃亜が純菜や家族に対する嫌がらせをしたことで、完全に関係が切れてしまっていた。当然のことなのだが、ずっとピッピのことが気がかりで時々スマートフォンの中の写真を眺めていた。

「あたりまえだろう……あ、起きた」

 耳をぴくぴくっとさせてからゆっくりと目を開いた。クレートの扉をあけてあげるとゆっくりと出てきて、ぐーっと身体を伸ばした。

「ピッピ」

 名前を呼ぶとうれしそうに尻尾を振る。愛らしい姿はそのままで、純菜は涙をにじませた。

「よかったぁ。元気そう」

 きちんとブラッシングされてるようで毛艶もよく、爪も短くカットされている。

 純菜は近寄って来たピッピを抱き上げると、ふわふわの体に頬ずりした。

「こいつは今日からうちの子だ」

「え……乃亜さんが譲ってくれたんですか?」

 最後に別れた時の敵意むき出しの視線が思い出された。あのときの状況であれば、こちらの求めに応じてピッピを渡してくれるとは思えない。

「乃亜さんがって言うよりも、あの秘書の玉川さんがこちらで暮らすのがピッピにとっても幸せだろうと判断してくれたんだ」

「そうだったんだ……」

「かなり時間をかけて説得してくれたみたいだ。結局こいつの世話も彼がしていたみたいだしな」

 お嬢様育ちで世間知らずの彼女だったが、玉川のような人が傍にいるのならば少しずつ変わっていけるのかもしれない。

「ピッピ、これからまたよろしくね」

 頭を撫でると「ワンっ」と元気よく返事をした。人間の都合であちこち住まいが代わることになってしまってかわいそうだったが、これまでの分愛情を注いで一緒に暮していこうと純菜は心に決めた。

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