9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
『まあ、火起こし魔法すら使えませんの? 魔力を持たずに生まれてきた者でも、修行すれば習得できる、初級の魔法ですのに』

『魔法の神の国の聖女が魔法を使えないなど、嘆かわしい。ダリス神は、どうしてあなたなんかを聖女にお選びになられたのかしら?』

身分や容姿はともかく、聖女のセシリアが魔法が使えないことを、周囲はとりわけ嘆いた。

……のだが。

実はセシリアは、ひとつだけ魔法を使える。

ただしこの魔法は、使ったところでセシリア本人にしか分からないので、誰にも知られていない。



「きゃあああっ!」

過去にぼんやりと思いを馳せていたセシリアは、背後から響いた悲鳴でハッと我に返り、足を止めた。

どうやら、エヴァンとマーガレットが入った部屋の中から聞こえたようだ。

「だ、誰か……っ!」

バンッ!と扉が開き、転がるようにして、マーガレットが廊下に飛び出してきた。
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