9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
そしてセシリアの初恋で、この世の何よりも大事だった人。

凍てつくような眼差しを浮かべながら、コツコツと靴音を響かせてセシリアに近づいてきたエヴァンは、いつもに輪をかけて冷たい空気を纏っていた。

神と彼を欺いた女が目の前にいるのだから、当然のことだ。

それでもセシリアは、これでエヴァンを救えたという充足感で、心満たされていた。

刃のごとく冷徹な表情の彼を見ているだけで、微笑みすら浮かんでくる。

「どうぞ、処刑してください」

エヴァンの発言を待たずして、セシリアは堂々と言った。

周囲から、どよめきが湧き起こる。

微笑みながら処刑を乞うた者など、いまだかつていないからだろう。

セシリアの目前で足を止めたエヴァンは、何も答えず、じっと彼女を見下ろしている。

だがしばらくすると、従者に命じて、セシリアの手首を拘束している縄を外させた。
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