9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
「ああ、そうだよ。小さいのによく知ってるね」

「はい、大好きな物語なのです。騎士のランダールがお姫様をさらう場面が特に好きです」

「僕もその場面は好きだよ。それから――」

純粋な弟と、まだ擦れたところのないこの少女は、どうやらウマが合うようだ。

エヴァンとフォンターナ侯爵の存在など眼中にないかのように、本の話でふたり盛り上がっている。

「では、失礼する」

思いがけない状況に困惑しているフォンターナ侯爵にそう言い残して、エヴァンはその場からひとり立ち去った。

たとえ聖女であろうと、やはりあの少女と一生を添い遂げる未来など想像もできない。

パーティー会場から逃げるように、風にあおられ、緑がそよぐ庭園を奥へと進んだ。

――『触れずにいられるか。情を交わした相手だ』

そのうち突如稲妻のように、セシリアを迎えに来たあの男の姿が脳裏によみがえった。
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