9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
全身黒ずくめの、しなやかな肉体を持つ、豹のような男だった。

とりわけ、威圧感を放つあの碧の瞳が、頭の中から離れない。

(セシリアは俺だけを好きでいるはずだった。それを、あの男が横取りしたんだ)

狡猾な、まるで悪魔のような男。

己の力を見せつけるためにいずれ侵略をしようと企んでいたオルバンス帝国の皇太子となれば、憎しみも倍増だ。

(許してなるものか)

もはや、王太子である自分の立場などどうでもいい。

この国の未来にすら、興味がなくなった。

皇太子デズモンドへの憎しみだけで、エヴァンは惰性のように生きている。

だが戦場で数々の栄えある功績を残している彼のことだ、一筋縄ではいかないだろう。

より狡猾な手段でないと、あの魔物のような男の息の根は、確実に止められない。

(必ず消してやる)

エヴァンは歯を食いしばりつつ、濁った灰色の瞳で、きつく前方を睨み据えた。
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