9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
   
   ※

エヴァンは今、父であるエンヤード国王のいる執務室に向けて、わき目も振らずに廊下を進んでいた。

渡り廊下の向こうに広がる庭園の木々の葉が、赤く色づいている。

セシリアがエンヤード城を去って、すでに数ヶ月が流れていた。

深刻な面差しで前を見据え、コツコツと靴音を響かせていると、前方からこちらに向かってくる者がいる。マーガレットだ。

マーガレットはエヴァンに気づくと、フンッと露骨にそっぽを向いたが、エヴァンは無視して前を通過する。

セシリアがいなくなった今、彼女のことなど、もはや眼中になかった。

父王の執務室にたどり着くと、エヴァンは、コツコツと部屋をノックした。

「入りなさい」

「失礼いたします」

執務室の奥には重厚な机があり、エンヤード王はそこで書類にペンを走らせていた。

「先ほどマーガレット嬢が婚約の報告をしに来たぞ。相手はレザーニスト宰相の息子だそうだ。あの令嬢のことをお前は気に入っているのかと思っていたが、問題ないのか」

書類から視線を外さないまま、エンヤード王が語る。

エヴァンはその問いかけには答えず、さっそく本題を切り出した。

「友好条約締結の使者として、オルバンス帝国にカインが赴くという話は本当ですか?」

エンヤード王はペンを持つ手を止め、エヴァンの不躾な態度に、一瞬怪訝な表情を見せる。

だがすぐに、真顔に戻った。

「本当だ。あれももう、齢十四。いずれは国王となるお前の補佐役を担う身として、そろそろ外交を任せてもいいだろうと判断してのことだ」
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