9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
彼もまた、普段の高貴な装いからは程遠い、簡素な格好をしている。

まるで農民が被るようなつばの広い黒の帽子、生成りのシャツに、皮のベルト、それから茶色の下衣に黒のロングブーツ。

どこからどう見ても平民の装いなのに、その類まれなる整った容貌のせいか、それでも特別なオーラが滲み出ている。

それなのに、自分のことは棚に上げ、開口一番「君は何を着ても美しいな」などと言うものだから、セシリアは面食らってしまった。

しばらくの間、本気でデズモンドの視覚を心配してしまう。

もちろん、彼が用意してくれたこの衣装は、気に入っているけれど。

デズモンドに誘われ、セシリアは城のごく一部の人間だけが知っている秘密の長い通路を通り、城を取り囲む森に出た。

東屋の横に、馬が一頭繋がれている。

黒毛の、デズモンドの愛馬だった。
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