9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
だが、セシリアと縁が切れてせいせいしているはずの彼が、わざわざ遠い異国の地まで来ていじめる理由が分からない。

よほど性格がねじ曲がっているといえばそれまでだが、幼い頃から帝王学をひたむきに学んできたエヴァンは、根は愚かな人間ではない。

謁見の間でしばらく待っていると、間もなくして皇帝とデズモンド、それからグラハムが現れた。

カインの顔を知らない皇帝とグラハムはいたって普通の態度だったが、デズモンドだけはあからさまに雰囲気を凍りつかせている。

「なぜ貴殿が? 第二王子が来城すると聞いていたが」

デズモンドのこれほど恐ろしい声を聞いたのは、セシリアは初めてである。

かつて、エンヤード城の謁見の間でひと悶着した際、エヴァンが暴言を吐いたのを覚えているのだろう。

「第二皇子は体調を崩し、代わりに私が来ることになったのです。連絡が滞っていたようで、失礼いたしました」
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