9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
一方のエヴァンは、相変わらず美麗な笑顔を崩さない。

「まあ、どちらでもいいではないか。彼は次期エンヤード王となる身。エンヤード城ではいろいろあったと聞いているが、次期君主同士、和解するいい機会だ。温かく迎え入れよう」

豪快な気質の皇帝は、使者がカインであろうがエヴァンであろうが、どうでもいいようだ。

皇帝の一声でその話は断ち消えになり、宰相の口から、友好条約調印に関するあらましが伝達される。

その後、エヴァンはグラハムと魔道具の話などをして盛り上がっていた。どことなく雰囲気の似た者同士、どうやら気が合うようだ。

その間も、デズモンドは終始思案顔だった。

そして一瞬だけセシリアと目を合わせると、何とも言えないつらそうな顔をした。

(お優しい方だから、時空魔法でエヴァン殿下を救ったせいで、私が命の危機に瀕したことを思い出しになられたのね)

そう解釈したセシリアは、つい最近まで毎日のように感じていた彼の深い優しさを思い出し、胸を痛めたのだった。
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