9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
「真ん中に描かれているのが、ゼラニカの花冠をいただいたユルスツク神です。赤く大輪のゼラニカの花は太陽の分身という伝説があり、太陽神であるユルスツク神を表す象徴と考えられています。そして隣にいるのが、ユルスツク神の使者である聖人です。すべての魔法を使いこなす、最強の使者と云われています」

「ダリス教は聖女だが、こちらは聖人か。これは興味深い」

思った通り、エヴァンは興味津々といった様子で食いついてきた。

「はい。ですが、学んだところによりますと、聖女と聖人には大きな違いがあります。エンヤード王国の聖女はその存在を公にされていますが、ユルスツク教の聖人は伝説めいたところがあり、いるかいないのか定かでないとか。聖人を見極める方法は、右手首にあるメビウスの痣と言われていますが、聖人はその痣を隠す傾向にあるようです」

セシリアは、今度は右手首にうっすらとメビウスの形が描かれた聖人の壁画を指し示した。

「なるほど。どうしてそのようなことをするのだろう?」

「一説によると、オルバンス帝国の聖人は神に成り代わる主を決め、その方のためだけに一生仕えるのだとか。聖人であることが知られてしまえば、エンヤード王国の聖女のように広く国のために動かなければならなくなり、そのしきたりがうまく機能しなくなるからだと言われています」

「へえ、それは羨ましい」

聖人の壁画を眺めながら、エヴァンが目をすがめる。

「俺も君を、自分だけの聖女にしておきたかったな」

意味深な発言に、次の説明に入ろうとしていたセシリアは、口を閉ざしてエヴァンを見る。

グレーの瞳が、真っすぐ、焦がれるようにこちらに向けられていた。

「……何を、おっしゃっているのですか?」
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