9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
ある日の夜。

「兄上は、レスメスカにある王族の別荘に移住することになった」 

いつものようにセシリアの部屋のソファーで紅茶を飲んでいたデズモンドが、ふいにそのことについて切り出した。

あのひと悶着のあと、デズモンドは、慕っていた兄グラハムに殺される別の人生があったことを、ベンジャミンから聞き出したらしい。

ベンジャミン曰く、ひどい落ち込みようだったという。

グラハムは、飄々としたフリをして、その実、第一皇子の自分ではなく弟のデズモンドが皇太子に選ばれた過去を、心の底から根に持っていた。

本当は、誰よりもプライドの高い人だったらしい。

聡い彼には、デズモンドを害すれば、自らの人生をも台無しにすることなど分かり切っていただろう。

それでも、デズモンドを害さずにはいられなかったのだ。

それほど、弟を憎しみ抜いていた。

「今後も内乱を起こしかねない危険分子として、父上が下した判断だ。表向きは病による療養という形にするらしいが、実際は幽閉され、不自由な生活を送ることとなる」

「そうでしたか……」

あくまでも落ち着いた風を装っているが、彼が傷ついていることは明白だった。

おそらくデズモンドは、グラハムとともに支え合って、この国を統治していく未来を思い描いていた。

だが予定していた輝かしい未来は、もっともつらい真実によって立ち消えた。
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