9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
ベンジャミンは、今日も今日とて、主であるこの国の皇太子デズモンドの執務に付き添っていた。

西棟の政務部にある皇太子専用の執務室で、書類にペンを走らせるデズモンドを後ろから見守る。

すると、ふとペンを持つ手を止めたデズモンドが、言いにくそうに口を開いたのだ。

「お前に聞きたいことがある」

「何でしょう?」

ベンジャミンは、飛ぶようにして主の傍に寄る。こうして彼の頼りにされるのは、彼に永遠の忠誠を誓っているベンジャミンにとっては至福の出来事だった。

「その、だな……」

デズモンドは歯切れ悪く切り出しつつも、やがて意を決したように声を振り絞った。

「夜に彼女をもっと悦ばせるにはどうしたらいい?」

言い終えたデズモンドは、首まで真っ赤になっていた。

戦場では獣のごとく敵を狩る恐れ知らずの彼からは、想像もできないほどウブな仕草である。

「ああ、なるほど。そういうことですね」

あまりの微笑ましさに、ベンジャミンはニヤニヤが止まらなくなっていた。
< 339 / 348 >

この作品をシェア

pagetop